離婚後の親権の取扱いが、単独親権から共同親権も可能になる
現在(2024年)の民法では、夫婦が結婚している間は、子どもの親権は夫婦による共同親権となっていますが、離婚後については、単独親権しか選択できませんでした。
そのため、離婚の際に、子どもの親権の帰属を巡って紛争になったり、親権を得られたなかった片方の親が子どもと疎遠になったりする等の弊害がありました。また、多くの先進国では共同親権が一般的となっていました。
そこで、子どもの権利利益を保護する見地から、2024年に成立した改正民法により、離婚後については、共同親権制度が導入されることになりました。共同親権制度が導入される改正民法は、2026年5月までに施行されることになります。
厳密に言えば、改正民法により、離婚後については共同親権または単独親権のどちらかを選べるようになりました。改正民法によって、共同親権が「原則」になったのかは、論者によっては議論があるところではありますが、条文の書きぶりでは、共同親権が「原則」になったと読めると考えてもよいかと思います。
しかし、改正民法は公表されましたが、具体的な運用については、まだ未知数のところがほとんどです。裁判実務もどうなるかは、改正民法の運用が始まらないと何ともいえません。
ですので、この記事の内容は、あくまでも現時点(2024年8月)での公表された資料に基づくものですので、随時、アップデートをしたいと思います。
親権とは
共同親権制度を理解するにあたっては、そもそも親権とは何かを理解する必要があります。
親権の具体的内容は、下記の3つです。
- 身上監護権
- 財産管理権
- 法定代理権
①身上監護権とは、子どもの身の回りの世話や、しつけや教育をする親の権限のことをいいます。監護権ということもあります。
身上監護権の具体的内容は、さらに下記の3つに別れます。
- 監護教育権 :子どもの看護と教育をする権限
- 居所指定権 :子どもの住む場所を決める権限
- 職業許可権 :子どもの職業を許可する権限
②財産管理権とは、子ども名義の財産(預貯金等)を管理する親の権限のことをいます。
③法定代理権とは、子どもが当事者として契約をする場合に、親が代理人となる権限のことをいいます。
改正民法によりどう変わるのか
現行民法における親権の取扱い
現行民法では、親権の取扱いは
婚姻中 :共同親権
離婚後 :単独親権
→どちらが単独親権を持つのか合意がまとまらない場合は、裁判所が単独親権者を定める
となっています。離婚後は、当事者の合意があったとしても、共同親権は制度上選択できないのが現行民法の扱いです。
改正民法における親権の取扱い
改正民法では、親権の取扱いは
婚姻中 :共同親権
離婚後 :共同親権 or 単独親権 のどちらかを合意により選択可能。
→合意がまとまらない場合は、裁判所が共同親権にするのか、単独親権にするのか(単独親権となる場合に、単独親権者をどちらにするのか)を判断
となります。
改正民法の内容① ~親権は誰がどのように行使するのか~
改正民法により、共同親権の場合に、誰がどのように行使するのかが、新たなルールが具体化されました。
具体的には、下記のとおりです。
- 親権は、父母が共同して行う。
ただし、次に掲げるときは、その一方が行う。
①その一方のみが親権者であるとき
②他の一方が親権を行うことができないとき
③子の利益のため急迫の事情があるとき - 父母は、その双方が親権者であるときであっても、上記⑴本文の規定にかかわらず、監護及び教育に関する日常の行為に係る親権の行使を単独ですることができる。
- 特定の事項に係る親権の行使について、父母間に協議が調わない場合であって、子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、父又は母の請求により、当該事項に係る親権の行使を父母の一方が単独ですることができる旨を定めることができる。
(結婚中や離婚後の)共同親権であっても、上記の場合は、単独で親権を行使することができることが明文化されました。
改正民法の内容② ~離婚後の親権の決め方~
現行法の場合
現行民法では、離婚する場合は、
協議離婚・調停離婚 →夫婦の合意により、どちらかの親を単独親権者として定める
裁判離婚 →裁判所が、どちらかの親を単独親権者として定める
という扱いとなっています。
改正民法の場合
改正民法では、離婚する場合は
協議離婚・調停離婚 →夫婦の合意により、共同親権または単独親権(単独親権者となる親)を定める
裁判離婚 →裁判所が、共同親権または単独親権(単独親権者となる親)を定める
という扱いに変更となりました。
裁判離婚で裁判所が共同親権または単独親権を判断する基準
改正民法が施行された場合、相当多数の事案では、夫婦の合意により、共同親権または単独親権(単独親権者となる親)を定めることになるかと思います。
そうなると、夫婦の合意がまとまらず、裁判離婚となった場合に、裁判所がどういう基準で、共同親権または単独親権を定めるのかが問題となります。
改正民法第819条7項では、このような基準が定められています。
(1)子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他「一切の事情」を考慮しなければならない。
(2)次の①又は②のいずれかに該当するときその他の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、父母の一方を親権者と定めなければならない。
① 父又は母が「子の心身に害悪を及ぼすおそれ」があると認められるとき。
② 「父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれの有無」、「協議が調わない理由」「その他の事情」を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき。
共同親権とすることが「子の利益を害する」場合については、裁判所が単独親権を定めなければならないという条文となっているので、離婚後も共同親権が原則となったという論者もいます。
他方で、「子の利益を害する」場合に、「おそれ」で足りる(例えば、DVをしたことではなく、DVをする将来の「おそれ」)とすると、裁判所の運用によっては、争いがある裁判離婚の事案では、単独親権の現行法と運用が変わらないのではないのではないかという批判もあるところです。
また、「おそれ」について、正面から争いとなった場合に、家庭裁判所の限られたリソースで判断できるのか等の懸念もあります。
政府答弁で示された考え方
共同親権または単独親権とする際の判断内容について、改正民法が議論された国会では、このような答弁がなされています。
○政府参考人(竹内努君) お答えいたします。 一般論としてお答えをいたしますと、過去にDV、虐待があったことが明らかなケースにつきましては、そのような事情は、先ほど申し上げましたとおり、DV等のおそれを基礎付ける方向の重要な事実でありまして、これを否定する方向の事実が認められなければ、DV等のおそれがあると判断され、父母の一方を親権者としなければならないことになると考えております。
https://kokkai.ndl.go.jp/txt/121315206X01120240514
政府答弁が裁判所を拘束するわけではないですが、立法時の議論としては参考にはされるでしょう。
改正民法の内容③ ~離婚後の監護の決め方~
離婚後は共同親権となった場合について、監護者の扱いについても、改正民法では変更があります。
- 監護者を定めることは義務ではないが、定めることができる。
- 監護者が定められた場合、監護者は単独で監護権(身上監護権、居所指定権、職業許可権)行使できる。他方の親権者は監護者の監護権の行使を妨げることはできない。
- 監護者を定めない場合、「子の監護の分掌」を定める。
子の監護の分掌といっても、子の監護については、進学や居所(住む場所)等のいろいろな事項がありますので、ある程度の抽象的な分掌(「進学」「居所」)や、一つだけの指定(「居所」)だけでもいいとされていますが、運用が始まるまでは何ともいえないところではあります。
「子の監護の分掌」の運用次第では、身上監護権の行使について、単独親権の現行法における扱いと大きくは変わらない可能性もありますので、今後の運用に注目となります。
ちなみに、親権の具体的内容としては、①身上監護権、②財産管理権、③法定代理権の3つがありますが、監護者や監護の分掌は、①身上監護権 についてです。
監護者や監護の分掌の定めがあったとしても、②財産管理権、③法定代理権については、離婚後の共同親権の対象(監護者が単独で行使不可)となります。
改正民法の内容④ ~共同親権でもめた場合~
離婚後に共同親権となった場合に、親権(①身上監護権、②財産管理権、③法定代理権)の行使については、
①片親が親権を行使できない場合
②急迫の事情がある場合
③日常の行為である場合
には、片方の親権者が親権を行使することが可能です。
しかし、上記①②③に該当しない場合で、父母の間でもめてしまい合意がまとまらず、子の利益のため必要があると認めるときは、父母のどちらかが、家庭裁判所に申し立てをして、家庭裁判所の判断を仰ぐことになります。
家庭裁判所は、申立てに理由があると判断した場合は、当該事項に係る親権の行使を父母の一方が単独ですることができる旨を裁判することになります。
「急迫の事情」や「日常の行為」の概念がどうなるかによって、共同親権が実効性があるのか(特に、非監護親にとって)が大きく変わるかと思います。
https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20240517b.html
共同親権となった場合、子どもに関するどのような場面で両親の同意が必要なのかについて、政府は法律の施行までにガイドラインを示すこととしています。
共同親権となったら子どもに関することは基本的に父母が話し合って決めるとしています。法務省は国会で、父母のどちらの同意も必要な例として▼幼稚園や学校の選択、▼進学か就職かの選択、▼転居先の決定、▼生命に関わる医療行為などを挙げています。例外として、「子の利益のため急迫の事情があるとき」や「教育などに関する日常の行為」はどちらかの親の単独で判断できるとされています。
【法務省が挙げた例】〇急迫の事情
▽期限の迫った入学手続き
▽緊急の手術
▽虐待からの避難 など〇日常の行為
▽子どもの食事
▽習い事の選択
▽ワクチン接種 などまた、海外への渡航について法務省は、留学などは両親の同意が必要とする一方、短期の観光目的の海外旅行なら「日常の行為」として単独での判断が可能だなどと答弁していて、基準があいまいだという指摘もあります。
急迫の事情があるとき | 入学試験の結果発表後の入学手続を一定期間にすべき場合、子への虐待から避難する必要がある場合、緊急に医療行為を受けるために診療契約を締結する必要がある場合 |
日常行為 | 食事・服装・習い事の選択、高校生のアルバイトの承認、一般的な薬の投与、一般的なワクチン接種について親権を行使する場合 |
他の一方が親権を行使できない場合 | 他の一方が長期旅行、行方不明、親権喪失等により親権を行使できない場合 |
家庭裁判所が特定の事項について親権の単独行使を認めた場合 | 日常行為に該当しない身上監護(居所指定)、財産管理、身分行為(養子縁組)について父母の意見が一致せず、父母どちらかの申立てにより家庭裁判所が親権の単独行使を認めた場合 |
離婚後に共同親権となったが、父母の一方が監護者として指定されている場合 | 監護者は、子の監護教育、挙の指定、営業の許可・取消しを単独でできる。 (注)財産管理権と法定代理権は、共同親権の対象 |
居所指定・転居、進学先の選択、重大な医療行為、長期の勤務を前提とする就業許可、パスポートの取得 |
共同親権制度導入前に成立した離婚への影響は?
共同親権制度が導入される前に成立した離婚では、単独親権が定められています。
共同親権制度が導入される改正民法が施行されても、既に成立した離婚について、当然に共同親権となるものではありません。
ただ、「子の利益のために必要」と認められる場合は、家庭裁判所に対して親権者の変更(単独親権者を変更する、または、単独親権を共同親権に変更する)を請求することができますので、この手続きの中で共同親権への変更を求めることは可能となります。
親権者の変更の申立てがあった場合の裁判所の判断基準は、下記のとおりとなります。
(1)子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他「一切の事情」を考慮しなければならない。
(2)次の①又は②のいずれかに該当するときその他の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、父母の一方を親権者と定めなければならない。
① 父又は母が「子の心身に害悪を及ぼすおそれ」があると認められるとき。
② 「父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれの有無」、「協議が調わない理由」「その他の事情」を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき。
(3)家庭裁判所は、父母の協議により定められた親権者を変更することが子の利益のため必要であるか否かを判断するに当たっては、
①当該協議の経過、その後の事情の変更その他の事情を考慮する
②当該協議の経過を考慮するに当たっては、父母の一方から他の一方への暴力等の有無、家事事件手続法による調停の有無又は裁判外紛争解決手続の利用の有無、協議の結果についての公正証書の作成の有無その他の事情をも勘案する
【参考】改正民法の条文
共同親権制度が導入された改正民法の条文はこちらです。2026年5月までに施行されることになります。
第四章 親権
第一節 総則
(親権)
第八百十八条 親権は、成年に達しない子について、その子の利益のために行使しなければならない。
2 父母の婚姻中はその双方を親権者とする。
3 子が養子であるときは、次に掲げる者を親権者とする。
一 養親(当該子を養子とする縁組が二以上あるときは、直近の縁組により養親となった者に限る。)
二 子の父母であって、前号に掲げる養親の配偶者であるもの
(離婚又は認知の場合の親権者)
第八百十九条 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その双方又は一方を親権者と定める。
2 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の双方又は一方を親権者と定める。
3 子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行う。ただし、子の出生後に、父母の協議で、父母の双方又は父を親権者と定めることができる。
4 父が認知した子に対する親権は、母が行う。ただし、父母の協議で、父母の双方又は父を親権者と定めることができる。
5 第一項、第三項又は前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。
6 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子又はその親族の請求によって、親権者を変更することができる。
7 裁判所は、第二項又は前二項の裁判において、父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断するに当たっては、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならない。この場合において、次の各号のいずれかに該当するときその他の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、父母の一方を親権者と定めなければならない。
一 父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき。
二 父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(次項において「暴力等」という。)を受けるおそれの有無、第一項、第三項又は第四項の協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき。
8 第六項の場合において、家庭裁判所は、父母の協議により定められた親権者を変更することが子の利益のため必要であるか否かを判断するに当たっては、当該協議の経過、その後の事情の変更その他の事情を考慮するものとする。この場合において、当該協議の経過を考慮するに当たっては、父母の一方から他の一方への暴力等の有無、家事事件手続法による調停の有無又は裁判外紛争解決手続(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(平成十六年法律第百五十一号)第一条に規定する裁判外紛争解決手続をいう。)の利用の有無、協議の結果についての公正証書の作成の有無その他の事情をも勘案するものとする。
第二節 親権の効力
(監護及び教育の権利義務)
第八百二十条 親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。
(子の人格の尊重等)
第八百二十一条 親権を行う者は、前条の規定による監護及び教育をするに当たっては、子の人格を尊重するとともに、その年齢及び発達の程度に配慮しなければならず、かつ、体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない。
(居所の指定)
第八百二十二条 子は、親権を行う者が指定した場所に、その居所を定めなければならない。
(職業の許可)
第八百二十三条 子は、親権を行う者の許可を得なければ、職業を営むことができない。
2 親権を行う者は、第六条第二項の場合には、前項の許可を取り消し、又はこれを制限することができる。
(財産の管理及び代表)
第八百二十四条 親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。
(親権の行使方法等)
第八百二十四条の二 親権は、父母が共同して行う。ただし、次に掲げるときは、その一方が行う。
一 その一方のみが親権者であるとき。
二 他の一方が親権を行うことができないとき。
三 子の利益のため急迫の事情があるとき。
2 父母は、その双方が親権者であるときであっても、前項本文の規定にかかわらず、監護及び教育に関する日常の行為に係る親権の行使を単独ですることができる。
3 特定の事項に係る親権の行使(第一項ただし書又は前項の規定により父母の一方が単独で行うことができるものを除く。)について、父母間に協議が調わない場合であって、子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、父又は母の請求により、当該事項に係る親権の行使を父母の一方が単独ですることができる旨を定めることができる。
(監護者の権利義務)
第八百二十四条の三 第七百六十六条(第七百四十九条、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の規定により定められた子の監護をすべき者は、第八百二十条から第八百二十三条までに規定する事項について、親権を行う者と同一の権利義務を有する。この場合において、子の監護をすべき者は、単独で、子の監護及び教育、居所の指定及び変更並びに営業の許可、その許可の取消し及びその制限をすることができる。
2 前項の場合には、親権を行う者(子の監護をすべき者を除く。)は、子の監護をすべき者が同項後段の規定による行為をすることを妨げてはならない。
(父母の一方が共同の名義でした行為の効力)
第八百二十五条 父母が共同して親権を行う場合において、父母の一方が、共同の名義で、子に代わって法律行為をし又は子がこれをすることに同意したときは、その行為は、他の一方の意思に反したときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が悪意であったときは、この限りでない。
(利益相反行為)
第八百二十六条 親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
2 親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
(財産の管理における注意義務)
第八百二十七条 親権を行う者は、自己のためにするのと同一の注意をもって、その管理権を行わなければならない。
(財産の管理の計算)
第八百二十八条 子が成年に達したときは、親権を行った者は、遅滞なくその管理の計算をしなければならない。ただし、その子の養育及び財産の管理の費用は、その子の財産の収益と相殺したものとみなす。
第八百二十九条 前条ただし書の規定は、無償で子に財産を与える第三者が反対の意思を表示したときは、その財産については、これを適用しない。
(第三者が無償で子に与えた財産の管理)
第八百三十条 無償で子に財産を与える第三者が、親権を行う父又は母にこれを管理させない意思を表示したときは、その財産は、父又は母の管理に属しないものとする。
2 前項の財産につき父母が共に管理権を有しない場合において、第三者が管理者を指定しなかったときは、家庭裁判所は、子、その親族又は検察官の請求によって、その管理者を選任する。
3 第三者が管理者を指定したときであっても、その管理者の権限が消滅し、又はこれを改任する必要がある場合において、第三者が更に管理者を指定しないときも、前項と同様とする。
4 第二十七条から第二十九条までの規定は、前二項の場合について準用する。
(委任の規定の準用)
第八百三十一条 第六百五十四条及び第六百五十五条の規定は、親権を行う者が子の財産を管理する場合及び前条の場合について準用する。
(財産の管理について生じた親子間の債権の消滅時効)
第八百三十二条 親権を行った者とその子との間に財産の管理について生じた債権は、その管理権が消滅した時から五年間これを行使しないときは、時効によって消滅する。
2 子がまだ成年に達しない間に管理権が消滅した場合において子に法定代理人がないときは、前項の期間は、その子が成年に達し、又は後任の法定代理人が就職した時から起算する。
(子に代わる親権の行使)
第八百三十三条 父又は母が成年に達しない子であるときは、当該子について親権を行う者が当該子に代わって親権を行う。
第三節 親権の喪失
(親権喪失の審判)
第八百三十四条 父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権喪失の審判をすることができる。ただし、二年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは、この限りでない。
(親権停止の審判)
第八百三十四条の二 父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権停止の審判をすることができる。
2 家庭裁判所は、親権停止の審判をするときは、その原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間、子の心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して、二年を超えない範囲内で、親権を停止する期間を定める。
(管理権喪失の審判)
第八百三十五条 父又は母による管理権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、管理権喪失の審判をすることができる。
(親権喪失、親権停止又は管理権喪失の審判の取消し)
第八百三十六条 第八百三十四条本文、第八百三十四条の二第一項又は前条に規定する原因が消滅したときは、家庭裁判所は、本人又はその親族の請求によって、それぞれ親権喪失、親権停止又は管理権喪失の審判を取り消すことができる。
(親権又は管理権の辞任及び回復)
第八百三十七条 親権を行う父又は母は、やむを得ない事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、親権又は管理権を辞することができる。
2 前項の事由が消滅したときは、父又は母は、家庭裁判所の許可を得て、親権又は管理権を回復することができる。
番外編:共同親権のメリット・デメリット論はどうなるのか?
これまで、共同親権を導入した場合のメリット・デメリット論が喧々諤々に議論されてきました。
ただ、離婚後の選択的共同親権を認める改正民法が成立しましたので、共同親権を導入した場合のメリット・デメリット論を振り返っても、あまり実益はなさそうですが、おさらいとして見てみましょう。
共同親権のメリット論とは
共同親権を認めた場合のメリットとして、
①離婚時の親権争いを回避できる
②離婚後も夫婦が共同して子どもの養育をすることができる
③養育費の不払いが起こりづらくなる
④面会交流が実施されやすくなる
がよくあげられていました。
①については、今回の改正民法では、離婚後の親権について、共同親権にするのか、単独親権にするのかは夫婦の協議となっており、協議がまとまらない場合は裁判所が判断することになっています。特に、親権争いが熾烈な場面では、「相手に親権を渡したくない」と考える人も少なくないでしょうし、そういう方は単独親権を主張することが多そうですので、親権争いが回避できるというのは言い過ぎかと思います。また、子どもを実際に育てるのは父母のどちらになるのか、という根本的な問題(対立)が生じた場合、共同親権だから紛争がなくなるというものではなさそうです。もちろん、多少、紛争は減る可能性はありまが、離婚後について、共同親権にするのか、単独親権にするのかという新しい紛争が増える可能性もありますので、改正民法が施行されて運用が始まらないと何ともいえません。
②についてですが、結婚中は現行民法でも共同親権ですので、結婚中に子どもの養育にあまり携わっていなかった片親が、離婚後も共同親権になったからといって、子育てに積極的に携わるかどうかというと、その人次第なのではないかと思います。
③共同親権になれば、養育費を払う親が増えるというのは、さすがに楽観的すぎるかと思います。この主張が正しいのであれば、法定養育費という制度を導入する必要がないはずです。養育費の不払い問題を抜本的に解決するためには、制度上の担保(養育費の合意をしないと離婚できない、養育費の支払がない場合は強制執行がしやすい、養育費の支払義務者の財産調査が簡単にできる等)が必要であると考えます。
④共同親権が認められると面会交流がしやすくなる、というのも、これは抽象的な議論にすぎないかと思います。離婚後も父母関係が良好な場合は、現行の単独親権の場合でも、改正民法で共同親権となった場合でも、特に問題なく、面会交流が実現できているはずです。議論の対象(実益)となるのは、離婚後の父母関係が高葛藤状態となっているために、面会交流が実施できていない場合です。離婚後の父母関係が高葛藤状態になっている場合は、改正民法が施行された後でも、離婚時に共同親権とする協議がまとまらない可能性が高いでしょう。仮に、離婚後も共同親権となった場合であっても、いざ、面会交流を実施しようとすると、子どもを監護している親が難色を示すわけですから、共同親権者だとしても、実力で面会交流を実現することはできません(自力救済禁止)。となると、共同親権となった場合であっても、家庭裁判所の面会交流実務(調停、審判)がどうなるのかが極めて重要です。
もし、家庭裁判所の面会交流実務がそれほど変わらないのであれば、共同親権になったとしても、単独親権の現行民法における面会交流(月1回、1回2時間)とさほど大きな変化がない可能性すらあります。
結局、面会交流が実施されやすくなるかどうかは、家庭裁判所の実務(人員リソース、調査官や裁判官に対する研修・教育等)が変わるかどうか次第かと考えます。