Zoomによる勧誘(営業)は、電話勧誘販売のクーリングオフの対象になるのか?【弁護士解説】【9/10に行政処分事例を追記】

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目次

電話勧誘販売に該当するとどうなるのか?

事業者と消費者の取引が、特定商取引法の「電話勧誘販売」に該当すると、特定商取引法(特商法)による規制を受けることになります。

主な規制内容(の項目)は、下記の5つです(他にもあります)。

  • 特定商取引法の表示義務
  • 申込書面、契約書面の交付義務
  • クーリングオフ(契約書面の交付後8日以内)
  • 前払式電話勧誘販売の場合の通知義務
  • 各種の禁止行為

この中で、事業者にとっても、消費者にとっても、特定商取引法の電話勧誘販売に該当すると、もっとも意味があるのは、③クーリングオフの適用があることです。

クーリングオフは、契約書面(②)を受領した日から8日以内であれば契約を解除し、代金全額の返還を受けられることになります。

そして、事業者から契約書面が交付されなかったり、契約書面が交付されたとしても、法定の記載事項や表現の不備がある場合は、いつまでもクーリングオフが主張できますので、サービスの提供を全て受けた後であっても、契約を解除し、代金全額の返還を受けられることになるという点で、強力な消費者保護の仕組みとなっています。

電話勧誘販売は、

  • 消費者が自ら商品やサービスを求めていないにもかかわらず、突然、事業者から電話がかかってきて、その電話で勧誘を受ける「不意打ち型」の取引であること
  • 事業者が推奨する特定の商品やサービスについて説明を受けること(商品情報の限定性)
  • 特定の商品やサービスを購入するかどうかの意思決定をその場で迫られて、契約締結する

という事情があります。

そこで、特定商取引法は、電話勧誘販売に該当する場合には、

  • 口頭での勧誘や契約の説明について、事業者に書面交付を義務化(契約書面等)
  • その場で契約を締結しても、一定期間のうちは、消費者に無理由での契約解消の機会を付与(クーリングオフ)

することで、消費者保護を図ることにしました。

特定商取記法の「電話勧誘販売」とは具体的にはどういう場合か?

「電話勧誘販売」とは、次の2つの場合です。

  • 事業者が消費者に電話をかけ、その電話において行う勧誘によって、消費者と契約を締結する場合
  • 事業者が消費者に特定の方法により電話をかけさせ、その電話において行う勧誘によって、消費者と契約を締結する場合
    →「特定の方法」とは、
     (ⅰ)契約締結の勧誘を告げずに電話をかけることを要請した場合
     (ⅱ)他社より著しく有利な条件で契約が締結できると告げて電話をかけることを要請した場合

となります(説明をわかりやすくするために、やや簡略的な表現をしております。厳密な説明は、弁護士に相談してください)。

文字だと、わかりにくいかと思いますので、図解するとこうなります(これでも、まだわかりにくいかとは思いますが、ご容赦願いします)。

Zoomによる勧誘(営業)は、「電話勧誘販売」に該当するのか?

コロナ禍によって、Zoom・スカイプ等のオンラインを使った事業者の商品やサービスの勧誘(営業)活動が広く行われるようになりました。

一見すると、特定商取引法の「電話勧誘販売」には、「電話」とありますので、Zoomによる事業者の勧誘(営業)は関係ないようにも思えます。

しかし、行政解釈では、Zoom・スカイプ等によるWEB会議ツールは、特定商取記法の「電話」に該当するとされています。

特定商取引法第2条第3項に規定する「電話をかけ」とは、電話により通話状態に入ろうとすることをいい、インターネット回線を使って通話する形式(映像を伴う場合も含みます。)を用いた場合であっても「電話」に該当するとされています。設問の事例で用いられているWEB会議ツールは、インターネット回線を使って通話する形式であるため、事業者がURLを送った場合「電話をかけ」に該当します。

電話勧誘販売の解釈に関するQ&A 「Q5
https://www.no-trouble.caa.go.jp/qa/telemarketing.html

事業者がZoomによる勧誘をする場合を図解すると、下記のとおりとなります。

そして、行政からは下記のような告知もされています。

ウェブ会議で勧誘されて高額な契約をしてしまった!
~ウェブ会議を利用した契約トラブルが増えています~

消費者注意情報

令和6年4月12日

相談

 昨日SNSのアカウントに、ウェブマーケティングのスクールを運営している事業者からダイレクトメッセー
ジ(DM)が届いた。話を聞くだけのつもりで連絡したところ、事業者からウェブ会議に招待されたので参加し
た。SNSの運用ノウハウ等を教えるオンラインスクールについて説明があり、受講料50万円のコースを勧められた。高額なので躊躇したが、分割払いなら月2万円で済むと言われ、契約した。しかし、契約書には受講料や具体的な講座内容の記載がなく、分割手数料も高いので解約したい。クーリング・オフはできるか。


(中略)


ウェブ会議で勧誘された場合は電話勧誘販売に該当し、クーリング・オフが可能です。

事業者からウェブ会議に招待されて勧誘を受けた場合、特定商取引法で定める電話勧誘販売に該当します。
解約を希望する場合、契約書面受領後8日以内ならクーリング・オフが可能ですので、書面または電磁的書面(メール等)でクーリング・オフを申し出ることができます。また、信販会社等に分割払いを申し込んだ場合は、信販会社等にも書面で通知しましょう。

東京都消費生活総合センター
https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.lg.jp/sodan/kinkyu/20240412.html

事業者からZoomのURLを消費者に送った場合に、事業者が消費者に「電話をかけ」たといえるという行政解釈については、判例は出ていません(2024年5月現在)。

他方、行政解釈が出ている以上、Zoomを販売活動に使う事業者にとっては、対応を迫られているといえます。

Web会議システムを用いた勧誘が電話勧誘販売に該当することを前提に、行政処分(業務停止命令)がなされた事例

 消費者庁は、2024年9月5日、Web会議システムを用いてセミナーの勧誘を行った事業者に対して、Web会議システムによるセミナーの勧誘が特定商取引法の電話勧誘販売に該当することを前提に、契約書面の不交付、不実告知、再勧誘等の義務違反を理由に、特商法に基づき業務停止命令を出しました。

 Web会議システムによるセミナー勧誘が電話勧誘販売に該当することを前提にして、消費者庁が業務停止命令を出して公表したのは、おそらく初めてなのではないかと思われます。

 Web会議システムとして使われたのが、Zoom、Google Meet、Teams、それ以外のアプリなのかは消費者庁のリリースからはわかりませんが、かなりの注目判断ですね。
 

電話勧誘販売業者【株式会社即決営業】に対する行政処分についてhttps://www.caa.go.jp/notice/entry/039195

Zoomによる勧誘をする事業者はどんな対応をすべきなのか?

事業者がZoom・スカイプ等のWEB会議ツール(テレビ会議ツール)を使って、販売活動を行う場合の対応は、次の2つとなります。

  • 特定商取引法の「電話勧誘販売」に該当することを前提に対応を行う
  • 特定商取引法の「電話勧誘販売」に該当しないように販売活動を見直す

特定商取引法の「電話勧誘販売」に該当することを前提に対応を行う場合

まず、Zoomによる勧誘が電話勧誘販売に該当することを前提に対応をする場合、事業者は、特定商取引法に定められた下記の義務を全て守る必要があります。他にも事業者の義務はありますので、個別の事案については、弁護士にご相談ください。

  • 特定商取引法の表示義務
  • 申込書面、契約書面の交付義務
  • クーリングオフ(契約書面の交付後8日以内)
  • 前払式電話勧誘販売の場合の通知義務
  • 各種の禁止行為

事業者にとって最も影響が大きいと思われるのは、契約書面の交付義務になります。念のためですが、契約書面の交付義務「だけ」すればいいわけではありませんので、くれぐれもご注意をお願いします。

契約書面を交付しなかったり、契約書面を交付していても記載事項に不備があると、購入者(消費者)は無期限にクーリングオフをして、契約を解除し、代金全額の返還を求めることができるからです。

仮に、サービスが提供し終わっていた後でも、クーリングオフは可能で、その場合でも事業者は、代金全額を返金する必要があります。

ですので、Zoomによる勧誘(営業)が電話勧誘販売に該当すると、クーリングオフが適用されるということは、事業者にとっては影響が大きく、消費者にとっては、強力な武器となります。

Zoomによる勧誘(営業)をしておられる事業者の方が、特定商取引法対応をすることを検討される場合は、弊事務所までお問い合わせ頂ければ、対応方法も含めて、ご提案させて頂きます。

03-3263-7278

特定商取引法の「電話勧誘販売」に該当しないように販売活動を見直す場合

こちらは、事業者が販売活動にZoomを使う場合であっても、販売活動(フロー)を見直すことで、特定商取引法の「電話勧誘販売」に該当しないようにするという対応です。

ただ、事業者が扱う商品やサービスよって、どういう販売活動(フロー)になっているのかは千差万別ですので、はたしてこの対応が現実的に可能なのか(例えば、コンバージョンとの兼ね合いも含めて)、個別事案次第かと思います。

こちらも、個別の事案については、弁護士にご相談ください。

決済代行業者の対応【2024年9月2日追記】

2024年になってから、決済代行業者が、クレジット・カードの加盟店となる事業者に対して、下記のような対応を求め始めています。

  • 【その1】クレジット・カード決済を用いてサービスを販売する際にzoom等のテレビ会議で勧誘しないように求める対応
  • 【その2】クレジット・カード決済を用いてサービスを販売する際にzoom等のテレビ会議で勧誘する場合は、特定商取引法の電話勧誘販売の規制を守ることを求める対応
  • 【その3】クレジット・カード決済を用いてサービスを販売する際にzoom等のテレビ会議で勧誘しないよう求める対応、または、テレビ会議を用いて勧誘する場合は特定商取引法の電話勧誘販売の規制を守ることを求める対応

決済代行業者の立場では、クレジット・カード決済を行う事業者がzoom等のテレビ会議でサービスの勧誘をしているかどうかは把握しきれません。事業者がテレビ会議でサービスを勧誘していた場合、電話勧誘販売に該当ますので、決済代行業者がクーリングオフ主張をされて、チャージバックを求められるリスクがあります。

そのため、あくまでも想像にはなりますが、一部の決済代行業者は、【その1】のようにテレビ会議でサービスを勧誘することを禁止するという対応をしているのかもしれません。

ただ、電話勧誘販売に該当したとしても、事業者が特定商取引法の規制を遵守すれば適法にサービスを販売できます。

決済代行業者が、クレジット・カード決済を利用する事業者に対して、【その1】の対応を求めるのは、リスク回避がやや過剰とも思えますので、個人的には、【その2】または【その3】の対応が妥当ではないかとは思います。

もちろん、決済代行業者が加盟店となる事業者に対して、どのような取引条件を求めるのかは、原則自由ではあります。

zoom等のテレビ会議を使ってサービスを勧誘する事業者の方にとっては、利用されている決済代行業者が、【その1】【その2】【その3】のいずれの対応を求めているのかは、ご留意された方がよいかと考えます。

03-3263-7278

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